「鉛筆を減らす」ママ日和

鉛筆を減らす
息子が小学生になり、半年以上が過ぎた。通学時には今も、親が付き添っているし、大変なこともある。
興味のあることには、のめり込むけれど、勉強や文字を書くことは苦手。
宿題を終わらせるのにも、一苦労。音読の宿題をしたくないため、国語の教科書が開かないようにテープで貼り付ける作戦などをひらめく息子に対し、こちらはついつい感心してしまう・・・。
(よく思いつくな~)
でも、感心しているばかりではいられない――。どうしたら、息子がやる気になってくれるか、こちらも作戦を練って格闘の毎日。

そんなある日、帰宅した息子のランドセルから、一枚の紙切れが出てきた。
紙には、たどたどしい字でこう書いてあった。
「えんぴつを1ぽんにしてください」
息子からのお願いらしい・・・。
学校からは、筆箱の中には、鉛筆は5本持たせるようにと言われている。それを1本だけにしたいというのだ。
私は、息子に言った。
「1本だけじゃ、芯が折れたり、落としちゃった時に困るよ。だから、ちゃんと持っていこう」
息子はしぶしぶ承知してくれたが、私の心のどこかに引っ掛かるものがあった。
息子が伝えたかったメッセージ。苦手な文字に苦労しながら書いた言葉。
もっと違う受け止め方をしたほうが、良かったんじゃないかと思った。
だけど、1本では不便で、困るのは息子。
息子に尋ねても、〈1本にしたい理由〉は語られることなく、結局翌日も、筆箱の中身はいつも通りのまま登校していった。

家には、「えんぴつを1ぽんにしてください」のメモだけが、寂しそうに残っていた。あの対応で良かったんだと、自分に言い聞かせながらも、やはり気になる。心が揺れる。
きっと夫に相談しても、「どっちでもいいんじゃない?」と言われるだろう。
でも、頭が固い私は、この問題を適当に流すことができそうになかった。
メモを眺めながら、私はどんどん自信がなくなっていく・・・。
(どうしたらいいの?)
自信満々だった解答用紙が、見直しするほど、間違いだらけに見えてくるような感覚。
〈悩みは小さなうちに吐き出す〉
以前から心がけていることを思い出し、私は、息子の担任の先生に相談する事に決めた――。

放課後、児童クラブへ子どもたちを迎えに行く前、学校の職員室へと寄った。
息子の担任はベテランの先生で、一人ひとりの子をよく見てくださっている。息子の入学当初から、とても信頼している先生だ。

鉛筆の一件を話すと、先生は、最近の息子の学校での様子を教えてくれた。
息子の机の周りには、常に物が散乱していること。鉛筆を筆箱にしまうという作業が、片付けが苦手な息子にとって、かなり負担になっていること。

そして、最後に先生はこう言った。
「やってみましょう!」
翌日からでも、鉛筆を1本にしていいとのこと――。ただし、〈もし芯が折れたりして困ったときには、それを息子本人が先生に伝えることは必要〉との言葉も添えてくださった。あっさりと息子の要求が受け入れられ、私は肩の力がスーッと抜けた。

「失敗してもいいじゃない。子どもにとって良いと思うことは、何でも試してみましょう」という先生。
私はといえば、先回りして心配ばかりしていた。それに加え、「こうしなければならない」というルールに、縛られすぎていたのかもしれない。
ルールを守ることは大切。でも、子どもの気持ちも大切。
自分にできないことを、できないと認めた上で、どうにかしたいと一生懸命に息子が考えた方法。それはズルいことや、努力が足りないということではなくて、彼なりの立派な工夫だったんだ。そして、その方法を実現するために、息子は助けを求めた。

「えんぴつを1ぽんにしてください」
それは、先生に宛てたものだったのか、母親である私に宛てたものだったのかは、はっきりとは分からない。けれども、ともかく息子はSOSを発した。

誰かに助けを求められるって、素晴らしいこと――。何もかも完璧にできる人はいないのだから、周りの人を信じて頼れるって、ステキなことだ。素直にそう思えた。

息子が勇気を出して、自分の気持ちを伝えてくれた。
そして、その勇気は、頼りない母親である私の背中を押してくれ、私は先生に相談することができた。
先生のように一緒になって子どものことを考えてくれる人が、身近にいることに改めて気付かせてくれたのは、息子だ。

子育ての中で何があっても、ぶれずにいられたら、どんなに良いかと思う。
けれど未熟な私は、きっとはまた迷い、悩むだろう。
それに、子育てに正解を求めすぎると、子どものことも、自分のことも追い詰めてしまう。それでは、ますます苦しくなるだけ。
そんな時には、周りに支えてくれる人がいることに感謝しながら、思い切ってその方々に力を借りよう。色々な方の経験から学ばせてもらおう。
そして、支えてもらった分、自分が頑張れることを精一杯やろう。
できないことにばかり目を向けるのではなく、一つひとつのできることを大切にする。迷いや悩みさえも抱き締めて――。

息子が鉛筆を1本にした日。それは私にとって、新しい価値観と、人の優しさに包まれた日でもあった。

著者紹介
名前
円野こいし
性別
年齢
昭和生まれ
出身
東京都
コメント
夫、小2の娘、年長の息子と熊谷に住んでいます。エッセイは初めてですが、子どもたちとの日常を綴っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
こいし

関連記事

  1. 熊谷ナビ

    エピソード.005「クマイエロー!カムバック!」

  2. あれよあれよと動けなくなったオレのこと

    第1話「あれよあれよと動けなくなったオレのこと」

  3. わたしの不倫

    保護中: 「わたしの不倫」短編エッセイ作品

  4. 夜に書ける

    夜に書ける

  5. オレの家に満天の星空が!惑星が降ってきた!

    第3話「オレの家に満天の星空が!惑星が降ってきた!」星つむぎの村・フライングプラネタリウム体験」

  6. クリスマス大作戦!

    エピソード.003「クリスマス大作戦!」

  1. 言い間違い4連発

    「言い間違い4連発」tanioの子育て 楽描き4コマ劇場

    2022.08.11

  2. オレ、くるみあんぱんを買いに行く。

    第8話「オレ、くるみあんぱんを買いに行く。」

    2022.06.24

  3. 野菜を育てる

    野菜を育てる

    2022.06.05

  4. ミライのこと

    第8話「イツカ」ミライのこと

    2021.12.29

  5. 第9話マスク

    「マスク」tanioの子育て 楽描き4コマ劇場

    2021.12.13

  1. 川久保皆実さん

    LiFE.018「当事者が声をあげる事で街を変えたい」川久保皆実さん

    2021.07.04

  2. LiFE.017「おりがみ忍者ハッタリくん!?」ハッタケンタローさん

    2021.03.16

  3. マグノリアコーヒー

    LiFE.016「多様化するコーヒービジネスの世界で」富岡恒久

    2020.10.16

  4. 和菓子処-かんだ和彩

    LiFE.015「熊谷1の和菓子屋さんにインタビュー!」神田 武治

    2020.06.13

  5. どすこい喫茶やまこ

    FiLE.013 穀物と野菜と果物料理の店「どすこい喫茶やまこ」の女将に…

    2020.06.10

  1. 走る!千社札2021号完成記者会見の会

    走る!千社札2021号完成記者会見の会に潜入なのだ! / 熊谷なびイベ…

    2021.11.26

  2. 野本翔平

    行田市の「パートナーシップ宣誓制度」について、行田市議会議員の野…

    2021.05.04

  3. 星に願いを

    星に願いを / 熊谷なびイベント情報

    2020.12.11

  4. 花処花十

    お客様の声003.ゆるいてんちょうさま

    2020.11.03

  5. 森田さん

    お客様の声002.森田さま

    2020.08.26

カテゴリーから選ぶ

Google広告

ワクワクを体験しよう

たべる、たいけん、よむ、まなぶ、の4キーワードと、おすすめのイイモノをご紹介。

たべる

たいけん

たべる

たべる

KUMAGAYAGIRLS

KUMAGAYABOYS

いいお店

熊谷市民の生活圏内の「いいお店」を厳選してお届けしております。

Line URL:https://kumagayalife.com/

グーグル広告

公式YouTubeチャンネル

ドローンなどを活用して、動画で楽しい情報を配信しております。

URL:https://www.youtube.com/channel/

Google広告

LiNE@アカウント

LiNE@でしかGetできない情報や、限定オリジナル画像など続々と配信中です。

Line URL:https://line.me/

オリジナル画像配信中

熊谷戦隊クマレンジャー達の限定オリジナル画像を続々と配信中です。

下記のQRコードを写真で読み込むか、友達追加ボタンを押すだけで、簡単に無料でGETできます。

友だち追加 FiVE002

グーグル広告