少し前に、「野菜を育てたい」と息子が言い出した。野菜といえば、以前、小学校でミニトマトなどの栽培はしたけれど、家庭菜園は初めて。
でも、自分で何かをやってみたいという気持ちは、大切なもの。早速、始めてみることにした。
家に、昔どこかでもらった野菜の種があったので、息子と種まきをしたけれど、残念ながら芽は出なかった。古すぎたのかもしれない。
そこで、子どもたちと種苗店に出かけることに――。
そこには色々な種類の野菜の苗がずらりと並んでいた。ミニトマトだけでも何種類もある。
息子は目を輝かせながら、苗を見て回る。この頃、思春期を迎え、口数の少ない娘は、初めは興味なさそうにしていたが、徐々にぽつりぽつりと、自分はこれがいいというのを話してくれた。
あれもこれも欲しいけれど、我が家では、プランターを使って小さな家庭菜園をする予定なので、そこに収まるくらいの数で選ばなくては……
三人で相談し、結局、学校でも栽培した経験のあるミニトマト、娘の好きなキュウリのミニサイズ、そしてリーフレタスの苗を買って帰った。
「早く植えよう、早く植えよう」と、張り切る息子。「折角なら、お気に入りのじょうろで水やりをしたい」という娘。
こうして、我が家の野菜作りが本格的に始まった。
息子は、帰宅後には、プランターの様子を観察するのが日課となった。娘が探していた可愛いじょうろは、無事ホームセンターで手に入れることができた。そのじょうろを使って、娘も、水やりなどのお世話をよくしてくれる。
日々生長する野菜たちの姿には、発見や驚きが溢れている。
キュウリは、朝伸ばしかけのつるを見つけたと思ったら、夕方にはもう、支柱にまきついていたり、花が次々と咲いたり……
ミニトマトの苗もあっという間に大きくなり、実をつけ始めた。
その生命力には元気をもらえる。
一ヶ月ほど経ち、リーフレタスが収穫できるほどに大きく育った。
今まで生野菜はあまり好きではなく、レタスもそんなに食べたがらなかった息子にとっても、家庭菜園で収穫できたものは格別。その日食べる分だけ葉を収穫し、サラダなどにすると、子ども達はよく食べ、「毎日食べたい」と言ってくれる。
採れたての野菜は、瑞々しくて、手の込んだ料理にしなくても、子どもたちが喜んでくれるのが嬉しい。
収穫の楽しみも知って、ますます野菜作りに熱心な息子と一緒に、最近は親子で、テレビの園芸番組を観るようになった。そこでまた、他の野菜や植物に興味を持ったり、野菜の育て方の面白さや奥深さを知ったりもする。
新鮮な野菜の美味しさを知って、野菜の直売所巡りも、息子の新しい趣味に加わった。どこかに外出したときには、その近くの直売所に寄って、採れたて野菜を買ったり、花の苗も眺めて楽しんだりしている。
娘とも、野菜作りの話題で会話が生まれたり、一緒に作業などもしている。娘も、来年は中学生。学業や様々な役割などで、段々忙しくもなってきた。最近は、家に帰ってくると、疲れているのか、一人で静かに過ごすことが多くなっていた。その娘と今、こういう楽しい時間が持てているのは貴重だ。
家庭菜園には、新たに青ジソが仲間入りした。以前は、香りの強いものは好まなかった息子が、先日初めて青ジソを食べることにチャレンジし、その美味しさに目覚めたらしい。今では「大好き」だという。野菜作りを通して、子どもたちの成長や、新たな一面も、知ることができている。
趣味の世界も、食の楽しみも広がり、「今度は何を育てよう?」そんなワクワクが私たち家族の毎日に、彩りを与えてくれる。
何年か前に、娘が昆虫に夢中になり、一緒に飼育をしたり、観察していたときの事を思い出す。
今では、昆虫からすっかり卒業してしまった娘。
息子の野菜作りへの情熱もいつまで続くかは分からない。また、興味の対象も移り変わっていくものかもしれない。
けれど、何かに一生懸命になる――。
そのきっかけを作ってくれた子どもの興味や好奇心は、やっぱりステキだと感じる。そして、何かを始めてみることは、いつでも新しい明日を作り出してゆく。未来を創造している子どもたちの姿は、生き生きとして、キラキラ輝いている。
著者紹介
- 名前
- 円野こいし
- 性別
- 女
- 年齢
- 昭和生まれ
- 出身
- 東京都
- コメント
- 夫、小2の娘、年長の息子と熊谷に住んでいます。エッセイは初めてですが、子どもたちとの日常を綴っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。