東京都で先輩である金子氏の家で居候生活をしつつ、不器用な男と宇宙人が一緒に暮らす『ダムダムボーイズ』という作品を、Youtubeやアニメ専用アプリなどで配信しています。
高校生の時に引きこもりや若ハゲなどを経験、暗いトンネルを抜けて、武蔵野美術大学彫刻学科に入学し金子氏らとアニメを作る。その後アニメ制作会社に就職するも、超激務にもかかわらず月給2万円前後という、過酷すぎる労働環境で4ヶ月にて退職。その後、巷でブラック企業とよばれるような会社を渡り歩きながらも、現在は学生時代から大好きなアニメ作りに携わって生活している、上野さんにインタビューさせていただきました。
もっと気楽に考えて
ライター柿沼
「今回、YAHOOに掲載されたインタビュー記事を拝見させて頂いて、一番文末の『日本社会は職を転々とする、僕みたいな人にはとても厳しいです。ですが、回り道をする事はそんなに悪い事なのでしょうか。上手く生きられなくても生きてる人間がいる事を知ってほしい、だから包み隠さず話す覚悟で来ている。』という、この文面が凄くいいなーと思って、お声がけをさせて頂きました。」
上野さん
「ありがとうございます。」
ライター柿沼
「PATH OF LiFEというコーナーが、色んな頑張っている人とかマイノリティーな方を取材をして、登校拒否になってる子とか、就職活動で悩んでる人とかが見て『こういう生き方もあるんだ。』という、多様性みたいなものを感じて、なんか気が楽になるって言うか、そういう一つの指針みたいなものになればいいなというコンセプトがありまして。」
上野さん
「そうですよね、だから僕が今回でた理由も、僕の事みて『まだコイツよりはマシだな。』って思ってくれれば、いいかなって(笑)」
ライター柿沼
「いやいやいや(笑)それはちょっとあれですけど(笑)やっぱり、悩んでる時とかって自分の世界しかみれないじゃないですか、視野が狭いというか。もし、自分の見える範囲に、個性的な人がいなかったら、あれ?僕おかしいのかな?って、思っちゃたりすると思うんですよね。」
上野さん
「そうですね、そういう人が読んでくれて、こんなやつもいるんだし、もっと気楽に考えて、笑ってくれればいいかなー(笑)」
ライター柿沼
「楽しいお話し期待しております(笑)今回は、仕事をメインテーマとして『回り道』についてお話を伺えればと思います。」
仕事での回り道
上野さん
「まず、美大をでて、アニメの制作会社に入社しました。下請け会社なんですが、仕上げでは業界で一番大きな会社で動画マンとしてやってたんですが、とにかく月収が安いんですよ。週6でいってて、徹夜とかもあって、日曜日に休みがあっても『日曜に来てるやついるんだから来いよ。』みたいな感じで・・・。結構書いても月2万とか・・・。」
ライター柿沼
「月収2万!?」
上野さん
「アニメーターって1人1人が個人事業主なんですよ、最近はそれを変えてる会社もあるんですが、スタジオはアニメーターに作業を渡す、そしてスタジオで作業していいよ、そしてあなたが上げた分を1枚○円でうちが買いとるよって言う感じで。」
ライター柿沼
「個人事業主なんですね!!!」
上野さん
「みんな3月にはスタジオで確定申告やってますね。」
ライター柿沼
「へー、業界的に一般的な感じなんですか?」
上野さん
「そうですね、世界で絶賛されるようなアニメを作ってる、大きな某スタジオなどは違いますが、ほんの一握りですね。」
ライター柿沼
「へー。2万じゃ家賃すら払えないですよね。」
上野さん
「そうですね、貯めてたお金があったのですが底を尽きちゃって、恋人もいたんですが全然帰れないし、あまりにも夢がなさすぎるんで、4ヶ月で辞めましたね。」
ライター柿沼
「そんな環境で続く人いるんですか?」
上野さん
「まー実家暮らしとか、あとは女の子が多かったかもですね、お金の事に関してガーガー言わないタイプというか。アニメーターで10年ぐらいやっている先輩でも、多いときで15万とかで、少ない時で8万とかですね。」
ライター柿沼
「なるほど、そちらを4ヶ月で辞めて次はどちらに。」
上野さん
「次は、バイトで飛行機模型雑誌などの編集部ですね。僕はプラモデルとか大好きなんで、話し合うなと思ったんですけど、今度はそこの人と上手く行かなかったです。」
ライター柿沼
「人と・・・、スタッフと?」
上野さん
「なんでしょう、僕が萎縮してしまったというか・・・。皆さん知識があって詳しいしワンマンみたいな人が多くて、下手に『あの飛行機かっこいいですね。』というと、『そうだね、で?』いまさら聞くの、みたいな空気になってしまって、何話ししたらいいか分からない、どう距離をつめたらいいか分からないみたいな雰囲気になってしまって、1年ちょっとで辞めてしまいました。」
ライター柿沼
「なるほど・・・。」
上野さん
「結構、高圧的な方がいて、何かあるたびに『殺すよ。』って言われて、もうその殺すよってやめてよって・・・(笑)冗談のつもりかもしれないんですが、結構ガチトーンで言ってくるんで、それが嫌でしたね。」
ライター柿沼
「えー怖っ(笑)ブラックな体育会系の営業会社ではありそうですが(笑)」
上野さん
「そうすると、自分でもやっぱり悩むんですよ、製作系の仕事向いてないんじゃないかなとか・・・。その中で、紹介してもらった舞台美術のバイトを次にはじめるんですが、プロジェクターの貸し借りしてる会社でもあったので、プロジェクターを車に積んで現場に運んで組み立ててみたいなこともしてました。そのついでに舞台みれたりするので、楽しかったりしました。」
ライター柿沼
「お!はじめてでました、楽しい!(笑)」
上野さん
「そこの人達はよかったんですけど、やっぱそこも給料が少ないみたいな・・・(笑)このまま暮らしていくには足りないかな・・・と。あと、人も少なかったので、休みがあまりなくて週一で、時間も朝早くて、終わりも遅いときもあって、生活スタイルがあってないなと・・・。それで、建築の夜間学校に行くことにしました。」
ライター柿沼
「なるほど、学校に。それはなぜそう決意したのですか?」
上野さん
「彫刻ともそんなに遠すぎる訳ではないですし、建築なら食いっぱぐれないだろうと。ただ金が無いので、奨学金借りて、昼間は老人ホームの派遣社員をしながら学校に通いました。その時は楽しかったですね。」
ライター柿沼
「でました、楽しい!」
上野さん
「そこにいたスタッフのメンバーが面白い方が多くて、今でも仲良くしてますね。役者目指してる人や、オカマのヘルパーだったりとか、利用者の方もほがらかでしたし、楽しかったですね。大体、2年間ぐらい働いてましたかね。」
ライター柿沼
「うわー、面白そう!いいですね、楽しいって思える環境って!」
上野さん
「ただ、建築の夜間学校を卒業後に、建築の設計事務所に入ったんですが・・・。そこの社長がかなりエキセントリックで、ワンマンで強い人だったんですよね(笑)『クズ、ボケ、一生栃木の百姓やってろ!』みたいな感じとか、『貧乏人は田舎が似合うんだよ!』とか、もうキレたらやばいですね。普段から言葉使いは荒い人なんですけど、『うちはセクハラ・パワハラなんでもありだから。』とか、『鬱になった方が悪い。』とか、『この貧乏人が!』とかよく言ってましたね。」
ライター柿沼
「うーーん(笑)逆に清々しい(笑)」
上野さん
「とはいえ、僕も職を転々としていたので、これ以上変な動きをすると、履歴書に一貫性が無くなると危機感もあり、1年半以上は耐えてましたね。」
ライター柿沼
「ほー、結構頑張りましたね。」
上野さん
「ただ最終的には、辞めたいといっても辞めさせてくれない感じだったので。当時TV局でADをやってた先輩の金子さんから、ここに住んでいいよと言ってくれたので、2017年5月末に冷蔵庫とか洗濯機などを前の寮に置いて、パソコンや服など車に積んでここに夜逃げして、今にいたると・・・。」
ライター柿沼
「夜逃げ!?ドラマチックですね・・・。そのあと、すぐ制作活動を開始したのですか?」
現在のアニメ製作活動について
上野さん
「とりあえず借金を抱えていたので。まずは障害者支援と老人ホームの夜勤の仕事を始めて、片方のクレジットカードの返済分を返して・・・。」
ライター柿沼
「すごい!返済は奨学金の返済分ということですか?」
上野さん
「そうそう、それと風俗狂いの時の・・・(笑)それで、いよいよちゃんと作らないとマズイなと。やっぱり生き方を何か考えないといけないなと、このまま行き当たりばったりどこかに就職して働いたとしても、また痛い目にあうだろうし。それよりも自分が何をやっていて幸せかを認識してないとまずいし。やっぱ作りたいものを抱えて、モヤモヤして生きるのは嫌だから、とりあえず働きながら、またアニメを作ってみるかって感じで金子さんと作り始めました。」
ライター柿沼
「今も、移動支援の仕事をして、帰ってきたらアニメの作業してって感じなんですか?」
上野さん
「そうですね、仕事をしながらですね。最近はアニメの方が忙しくなってきて、特に最近はイベントもあったりしてるので、移動支援の仕事は減らしてはいますね。色々とバランスの見直しを考えていて、アニメ自体でお金につなげていければいいなって、色々2人でアイデアだしてるところですね。」
ライター柿沼
「メンタル面でのバランスはいいですか?」
上野さん
「いいですね、僕は気分の波が激しいので、もちろん暗くなるときもあるけど、普通に落ち着いていますね、変なストレスとかも無いですし。」
回り道したほうがいい?しないほうがいい?
ライター柿沼
「これまで、回り道をされて、圧迫上司とのやりとりとか経験して、今考えると自分にプラスになっていますか?」
上野さん
「ネタとしてはオッケーかなと(笑)ただ、その人達に関わった所で、僕自身にプラスがあったかっていうとそうではないかな。やっぱり、暴言とかをあびたから僕は強くなれたとは思わないし、今思い返しても嫌な物は嫌だし、それを肯定すると、その人たちに対して、教育方針を認める事になっちゃうじゃないですか。僕はそれをしたくない、とは、思いますね。」
ライター柿沼
「出来れば、そんな経験しないような、普通の会社に入ったほうがいいっていうことですね。」
上野さん
「もちろんそうです。そういう怖い所は、自分が耐えたんだから、お前こんな程度で根を上げてんじゃねーよっていうのが出てくるわけですよ。絶対。自分がすごい過剰なストレスを受けていると、俺はこんなん耐えてる、だから、友達の愚痴とかを聞いてても『そんなくだらないことで愚痴ってんじゃねーよ。』とか、『メンタルよえーな。』とか、言いだし兼ねないじゃないですか。」
ライター柿沼
「それ、すごいわかるー。」
上野さん
「でも、僕の中で苦しみは絶対値なんで、相対的に見たら、アフリカやシリアの子たちが1番可哀想ですから。みんな我慢してる、辛いのは一緒だよって言われた所で、個人の苦しみなんて分からないじゃないですか。僕たちの見てるリンゴの赤だって、ひょっとしたら違う見え方をしている人もいる訳だし、感情なんて尚の事で、何が嬉しくて何が嫌なんて当事者しか分からないから。だから、みんな辛いからとか、あたしも我慢してるとか言われた所で、そんなの僕は知らないよって。だから、自分が感じた事は1番正しいっていう。」
ライター柿沼
「自分が超辛かったら、逃げるのも大事ですよね。一時退散して、いいタイミングを待ったり、新しい場所を探したりみたいな。」
上野さん
「そうですね、回り道したことない人って凄いそういうことを怖がる事が多くて。『仕事辞めるのやばいし。』とか、『ちゃんと学校いってないと。』とか、結構そういう人っているんですけど。別に僕はそんなことなんとも思わないんで。一生駄目になる事もないし、特に僕が今29、30歳ぐらいまで生きてきて、現段階では特に何も後悔はしてないです。けど、これから歳を取るにつれて、今の生き方がフィードバックされて、どうなるかは分からないですけど(笑)決して回り道自体は、経験としては後悔はないです。」
ライター柿沼
「ブラック企業に入って罵倒される経験を積極的する必要はないけど、失敗を恐れて回り道をしないように無理くり限界超えるまで頑張りすぎる必要もないということですかね。その場その場で一生懸命、ある程度自分で出来るとこまでやる。無理しすぎて、壊れちゃったらもうあれですしね。」
上野さん
「そうなんですよね。1度鬱になっちゃったら、脳の回路がそっちの方にスイッチが入っちゃうんで。」
ライター柿沼
「けど、良かったですよね、フィリピンの所から夜逃げできる場所があって。」
上野さん
「そうなんです。僕はかなり友達には救われたと思っています。」
ライター柿沼
「逃げる場所って大事ですよね。最後に、こんな壮絶な『回り道』をご経験されたなかで、現在進行系で引きこもりをしていたり、同じような超絶ブラック企業で働いている方にメッセージをいただけたらと思います。」
上野さん
「壮絶って程ではないと思うんですけど(笑)中国と日本で意味が違う『転石苔を生ぜず』ということわざがあるのですが。日本だと、転がった石は苔もむさず大したことない、いつまで経ってもつるつるのままだという解釈なんですけど。中国だと、苔って悪いイメージなので、転がっている石はいつまでも綺麗な状態でピカピカ輝くみたいな。だからずっと動かない人は、そのまま苔がむして、しょうもない感じの人になっちゃうみたいな。」
ライター柿沼
「なるほど。」
上野さん
「国によっても価値観なんて全然違うので、本当に自分の今いる場所が全てだとは思わない方が良いですよね。本当、考えている事が全然違う人っていっぱいいるんで、それは今改めてそう思う。東京にいると東京の価値感に囚われるし。自分の視点・環境とは違う方面から俯瞰してみるのがいいと思います。」
ライター柿沼
「それ、超わかります。一歩、その場所から離れてみた方がいいですよね。本日は、貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございました、新作アニメ期待しています!」
上野さん
「ありがとうございます。」
撮影/柿沼博基
制作ユニット『KWANED』
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