息子より二歳上の娘を見ていると、小学生になって一段と、子どもの世界が広がるように感じる。
友だちや先生と一緒に、授業中や休み時間に、そして様々な行事を通して、これから一体どんなことを経験し、何を感じるんだろう。
楽しみなことはたくさんある。でも、心配や不安がないわけじゃない。
けれど、まずはこの成長を喜びたい。新しい一歩を踏み出した息子と共に―― 。
息子の入学という節目。娘が入学した二年前のことを思い出した。
今は学校に通うことが、すっかり日常となっている娘。しかし、入学した頃は、そうではなかった。
小柄な娘は、ランドセルにたくさんの教科書を詰めて通学するだけでも、ずいぶん大変そうにしていた。保育所と小学校では、環境の変化が大きく、戸惑いや不安を感じているようだった。
「学校は嫌い」と言って、時折涙を流すこともあった。
遠慮がちな娘は、先生や友だちに、上手に自分の気持ちを伝えられないことが多かった。そして、その結果、小さな誤解が生じたり、一人でがっかりしてしまったり――。
けれど、保育所の頃とは異なり、担任の先生と顔を合わせる機会は少ない。それに、子どもの成長を信じ、親である私は一歩引いて、子ども自身に任せることも必要なのでは……なんて考え始めると、なかなか対応が難しい。
そんな時、娘にひとつの出合いがあった。学校の授業で、好きだと思える教科を見つけたのだ。
それは、「生活科」。特に、生き物について学ぶのが楽しそうだった。
もちろん娘には嫌いな科目もあるのだけれど、「嫌い」よりも「好き」の力は勝っていた。生活科の授業がある日は、たとえ他の苦手な授業があっても、嬉しそうに学校に行く。
好きなものを見つけた彼女は、とても生き生きしていた。
休み時間は、校庭の片隅で一人、虫探し。
「友だちと遊ばないの?」と、私は内心ちょっと心配していたが、本人は全く気にする様子はない。
それどころか、娘が毎日休み時間をそんな風に過ごしていたら、同じクラスの子も、虫探しをするようになったとのこと。
休み時間の過ごし方は、人それぞれで良いわけで、楽しく過ごせているなら何よりであることを、娘から教わった。
たまに、彼女の筆箱を開けると、校庭から連れて帰ってきてしまったダンゴムシたちが、丸まって入っていた。今でもそのダンゴムシたちは、自宅の飼育ケースで飼っていて、赤ちゃんも何度か生まれている。
そのほかにもカタツムリやバッタ、クワガタムシ、カブトムシ、コオロギ、ザリガニなど……。
色々な生き物を公園や近所などでつかまえては、家で飼うようになり、部屋の中にいくつも飼育ケースが並ぶようになった。
そして、学校の図書室で、毎週のように生き物の図鑑を借りてきては、じっくりと読む娘。
「お友だちに『ミミズ、気持ち悪い』って言われた」と話しながらも、ミミズがアップに写った表紙の本をしっかりと借りてきた娘を、「カッコいい」と思った。私だったらきっと、他人の目を気にして、借りるのを諦めてしまうだろう。
好きなものへの情熱は、人を変えるのかもしれない。
娘は、とても恥ずかしがりや。目の前の人とお話ししたいのにもじもじしたまま、結局話しかけられなかった、ということがよくある。
けれども、自分と同じく昆虫や生き物が好きな相手となると、違うクラスの子とも仲良くなれる。 学校で育てている野菜に小さな変化があれば、担任の先生に知らせに行く。個人面談の時に、先生からその話を聞いたときは、普段の娘とは違う姿に少し驚いた。
そして、娘の成長が嬉しかった。好きな思いを共有できるお友だちや、良いところを見つけ伸ばしてくれる先生に恵まれていることにも、安心した。
そんな出来事を通して、人生の中に、好きなものや好きなことがあることの大切さを、私は改めて感じるようになった。生きていく上で、苦手なことや嫌いなこと、辛いことと向き合わなくてはならない時もあるだろう。 挫けそうになることもあるかもしれない。
だが、そんな時、好きなことは、自分を励まし、生きる力を与えてくれる。
「これが好き!」という気持ち――それはそのまま生きる喜びにつながる。
それに時々、好きなものへの情熱は、自分だけではなく、周りの人まで変えてしまう。
だって私は、虫は苦手だったはずなのに、いつの間にか娘と一緒に、図鑑を眺めたり昆虫の飼育をしているのだ。嫌々ではなく、観察や発見に喜びや驚きを感じながら――。
乗り物にしか関心を示さないと思っていた息子も、娘の影響を受け、生き物大好きになった。やがて、昆虫やザリガニたちとは、飼っているうちに悲しい別れを迎えたり、「冬眠ができるように」と元いた場所に帰しに行ったりもした。そのような体験の中で、娘も息子も色々なことを感じ、学んだようだ。
「好き」というレンズを通して見る世界は、見慣れた景色さえ色鮮やかだ。
また、昆虫たちとの出合いの季節がやってきた。「将来の夢は昆虫学者」という娘は今年、どんな虫を観察しようとするのか、私も楽しみにしている。
けれど最近、彼女は他の分野にも興味が出てきたらしく、熱心にその分野の事典を読んでいる。
成長につれて、また世界が広がったという証かもしれない。
子どもたちの好奇心の翼に乗って、私は今年の夏も新しい冒険に出ようと思う。
それとも、自分が好きだと思えることを、新たに探してみるのもいいかも!
何かに夢中になるのに遅すぎることはないと思うし、出合いはきっとすぐ近くにありそうだから――
著者紹介
- 名前
- 円野こいし
- 性別
- 女
- 年齢
- 昭和生まれ
- 出身
- 東京都
- コメント
- 夫、小2の娘、年長の息子と熊谷に住んでいます。エッセイは初めてですが、子どもたちとの日常を綴っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。