夜に翔ける、空を飛ぶわけではないけれど、いつもこの時間は空をも飛べそうな走りだしを感じる。
いつからだろうか。ナイトランニングが日課になったのは。
今まで「仕事がー」といって避け続けてきた運動だが、まだ20代も半ばというのにこのお腹。
座ったときなんてもう、明らかに鏡餅を思わせる。
悲しいかな、男もスレンダーが主流になりつつある今、見るも耐えないこのお腹。
身体を丸めると、押さないで、潰さないでとiPhone販売日の電気屋の店員さんのごとくかなり強気に主張してくる。
いいかげんこのお腹をどうにかしないと、と思って始めたランニング。
陸上部だったから余裕だろ、とたかを括ったらとんでもない。
10分走るだけでジョギングからウォークに。
弱音なんてぐぅなんてもんじゃない。ぐぅ以上、げぇ未満であった。
耳に流れる「RYUSEI」は心なしか小さく聞こえる。
「こんなに走れなくなった。」
いや、むしろのびしろがある。
元陸上部として、あまりに不甲斐なさと未来を案じたたくあんは、走ろうと思った。
成績が芳しくなかった高校生のときの記録を大人になって抜いてみる、そして果てはオリンピック出場やマスターズで記録を残すことを目標にして。
大きすぎる目標でも、叶わない夢かもしれない。嘘でもいい。
目標ができた。夢ができた。それだけで身体は水をかけた紙ねんどのように解れていく気がした。
これで仕事を言い訳にすることもないだろう。
目標がある今、たくあんの自由な時間はオリンピックを見据える。
夜は誰にも邪魔されない。空いている道をひたすら前に走る。
回を重ねるごとにタイムが更新されていく。ニヤニヤできるのが幸せだ。
その帰りに飲むコーラはビールより甘くて、酸っぱい青春の味がした。
著者紹介
- 名前
- たくあん
- コメント
- アラサーだけど自覚したくない大きな男の子。
人生一度きり、やりたいことを極めようと、仕事の合間に物書き、腹話術をやっています。
長編、作るぞ〜!