「幸運を探す」ママ日和

希望を探す
乗り物に関係するものに対しては、並々ならぬ思いをもつ息子。
そんな息子を後部座席に乗せ、車を運転していると、たまに「うわ~ん」という大きな泣き声とともに、息子の履いていた靴が私に飛んでくることがある。
なぜかというと・・・・・・
〈信号が赤に変わったから――〉

子どもたちの通う保育園と学童クラブの送迎のため、よく通る交差点。普段は、一つ手前の信号機を青で通過すると、この交差点も青信号で渡れるはずなのだが・・・・・・
雨の日や道路工事の影響で道が混んでいると、そうはいかない。
ノロノロ運転のまま進み、あと少しで交差点という時に、信号が黄、そして赤へと変わってしまう。
「いつもと違うこと」に対して、不安を強く感じやすい息子。
そして、息子にとって、車は「スムーズに走っていること」が大事なのである。
赤信号に変わった瞬間、息子は「この世の終わり」であるかのように嘆き、それでも気持ちが収まらないと、靴を投げたり、物に当たったりする。
「危ないよ」などと言ってなだめようとすると、息子はさらに激しく泣き、自分でシートベルトを外してしまう。

情けないことに、初めのうち、私は息子のパニック状態に驚いて、為す術もなかった。「とにかく事故だけは起こさないように…」と必死にハンドルを握りしめ、自分自身の動揺を抑えるように努めた。(ただでさえ、人より運転が下手な私・・・・・・)
夫に相談をすると、
「そのうち泣き止むんだから、下手に何かしないほうが良いんじゃない?」
との答えだった。
確かに、なだめようとするほど、かえって息子の気持ちの高ぶりは収まりにくくなる。
夫は、子どもがどんなに大泣きしようと、あまり動じない。
けれど、私は「辛い」と感じてしまう。子どもが泣き続けていると、「何とかしなくちゃ」という焦りと、子どもの悲しみに自分の心まで染まっていくような感覚にとらわれ、一緒に泣きたくなる・・・・・・。
このままじゃいけないと思いつつ、良い考えが思い付けずにいた――。

けれども、何度かそのようなことが起こる中で、徐々に私も心の準備ができるようになっていった。
目の前の信号が赤に変わった瞬間、「来る!」と身構える。すると、車内に響く息子の泣き声。飛んでくる靴。(しかも、左右それぞれ!)
でも、私は動揺しないでいられる。ある程度、予測がつけば、対応できることもある。
そうだ、息子にも丁寧に説明すればいいのかもしれない・・・・・・。予想もしていなかったことが突然起こるから、驚いたり、不安になったりする。けれど、息子には予想できないことでも、大人の私には、事前に分かることがある。それをきちんと伝えればいいんだ。

それからは、
「今日は雨で道路が混んでるみたい。信号に引っかかっちゃうかもしれないよ」
「見て、右に曲がりたい車が多くて、前が詰まってるよ。信号が黄色になっちゃいそうだね」
などと、前もって状況を説明するように心がけた。(息子が望まないことが起こりそうなときには、特に)
すると、赤信号に引っかかってしまったときの息子の反応に、変化が表れた。
「あ~っ、止まらないで行きたかった!!」
と、大きな声で言って悔しそうな顔はするが、泣いたり、物に当たったりするのを、ぐっと堪えている様子が少しずつ見られるようになってきたのだ。
息子に変化が起こったことで、私も少し前向きな気持ちが出てきた。
〈ほかにも工夫できることはないだろうか〉と考えるようになった。
そういえば、車が信号で止まるのは嫌がる息子も、踏切で止まることは嫌がらない。むしろ、「何の電車が来るかなぁ?」と楽しみにしている様子。そんなことに思い当たった。
それならば、信号待ちも、楽しみの時間に変えられないだろうか?

ある日、また赤信号に引っかかり、しばらく動けない私たちの車。息子はイライラした様子。
その時、私たちとは反対に、交差している道路の車が動き始めた。その流れの中、ある車に私の意識が向いた。
「あっ、珍しいかたちの車!」
とっさに私が言うと、息子が反応。
「えっ、どこどこ? あっ、ホントだ~」
いつの間にか、ニコニコしている息子の顔。
〈これだ!〉
私も嬉しくなる。信号待ちを楽しみの時間にするきっかけ、つかんだかも――。

その後は、信号で止まったときはすぐに、前を横切っていく車に注意を向けるよう心がけた。
「あっ、パトカー」とか、「速そうな車」とか「あまり見ない色!」などなど。
とにかく目に付いた車に、私は声を出して反応する。すると、息子もワクワクしている様子・・・・・・。
けれど、そんなにいつも、珍しい車ばかりが通るわけじゃない。
見慣れた白い乗用車ばかり何台も通ったことがあった。とたんに、息子は不機嫌モード。
困った私は、
「こんなに白い普通の車ばかり続くなんて、珍しい!」
と苦し紛れに言ってみた。そうしたら、意外にも息子は
「ほんとだ、ラッキー」
と、驚いたように答えた。
「ラッキー」と口にするだけで、なんだかハッピーな気持ちになるから不思議だ。
赤信号で止まることも、見慣れた車しか通らないことも、ついていない出来事かもしれない・・・・・・。でも、そんな時だからこそ、見られる景色や、できる体験、発見もある。

小さな幸運に敏感になること――。
当たり前と思っていたことも、小さな幸せの積み重ね。
そんなことに気づいた、ある日の帰り道。
「私って、幸運なのかも…」と、心の中でつぶやいた。
フロントガラスの向こうに見えたのは、美しい夕空。――それは、私の心までも照らし、明日への元気を与えてくれるような優しい光だった。





著者紹介
名前
円野こいし
性別
年齢
昭和生まれ
出身
東京都
コメント
夫、小2の娘、年長の息子と熊谷に住んでいます。エッセイは初めてですが、子どもたちとの日常を綴っていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
こいし

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