成増と和光市の境目にある、このオンボロアパートは、窓が東向きで昼をすぎると極端に薄暗くなり、隣接する小さな町工場と1m程度しか離れていなく、しかも1Fにあるので、死ぬほど風通しが悪い。
「暑くて死んじゃうよ。」
寝そべり天井を見上げながら、弱々しく発した言葉も、町工場から聞こえる機械の音にかき消される。
週に1度のせっかくの休みなのに、休み感が全くなし。
ラインで彼氏に送ったメッセージも、一向に既読される気配はない。
「はぁ。」
魂の抜けたため息は、機械の音に張り合うこともなく、ただただ消えていく。
ふと、お腹に手をあてると、イメージよりも盛り上がっている。
「また太った。」
恐ろしくて、体重計に乗る勇気もないし、そもそも体重計なんて高級なものは我が家にはありません。
「はぁ、また明日仕事。」
スマホを起動させると、すでに14時過ぎ、朝ご飯も昼ごはんも作る気力なんかなくて食べてないのに、盛り上がっている私の腹。そう、こんな時に、絶対に頭をよぎる…、実家に帰ってオートで時間通りに用意される母のご飯食べたい。そんなことを考えながら寝そべっていると、ふと聞きなれた声。
先輩「おい!ミライ!いつまで寝てんだよ!さっさと働け!」
ミライ「えっ?あっ…。すいません。」
しまった、会社のハイエースの中で、いつのまにか寝てた。全然休みなんかじゃなかった。
ニッパーやドライバーなどの工具が入った紺のグレゴリーのポーチと、汗で湿ったタオルを手に取り、ハイエースの扉を開ける、潮の香りが鼻をかすめ、強い日差しが照りつける。
そうだ、今は東京ゲームショーの会期中だ。
先輩「おい、早くしろ!」
ミライ「すいません。」
半睡眠状態の私は、とぼとぼと先輩の後についていくので精一杯だ。
著者紹介
- 名前
- ミライ
- 性別
- まだ女
- 年齢
- 秘密のあっこちゃん
- 出身
- あつあつ熊谷
- コメント
- 突然のエッセイの依頼、驚きました。もちろん初めてですが、楽しくやってみようと思います。がんばります。